大学教授としての集大成
スタスタスタ。早足で歩きまわる者たち、その膝下あたりにローポジションで付き従うカメラ。何か物々しい雰囲気が伝わってくる。
大学のキャンパス内。教授の石井岳龍が研究室でピストルを咥えている。学生たち、教員たちが固唾をのんで見守る。銃声が響く。弾が発射されたのは、石井の口内ではなく、室内に向けてだった。使用されたのはモデルガンだ。
一同が呆気にとられているすきに、石井は窓から飛び出し、そのまま失踪。残された者は、石井の置き土産となった膨大なファイルをチェックし、石井の行動の謎を探ると同時に、石井の「自分革命闘争ワーク」を実践していく――。
映画は、過去の石井をめぐる学生たちの回想や空想、そしてワークの実践プロセスを映し出していく。耳に響く爆音、夥(おびただ)しい数の引用。決して分かりやすい映画ではないが、次々と飛び出すイメージとサウンドは、見る者を釘付けにするだけの吸引力を持っている。
石井本人とともに出演しているのは、実際に石井が教鞭をとる大学の教え子たち。2023年に大学を退任する石井が、彼ら学生たちとともに作った、集大成的な作品と言える。
LET IT BEのITとBEの間にMUSTが入り、LET IT MUST BE。LIKE A ROLLING STONE。LIKE A HURRICANE。絶対矛盾の自己同一…。画面に現れるフレーズやタイトルは、学生たちに向けたメッセージか、自身のスタンスの表明か。
映画の中で、石井は学生たちに「モノクロ、サイレント、35ミリ、フィックス」という課題を課している。映画の原点に回帰せよとの指示。それは自分の原点に帰り、自己を見つめ、自身を表現することに他ならない。
そんな石井の導きに従い、学生たちは想像力を駆使し、内に秘めた可能性を切り開いていく。SF、ミュージカル、アクション…。学生たちは多様なジャンルの表現者となり、映画の一部となっていく。それは、もちろん学生たちを使った石井の演出ではあるが、石井と学生とのコラボレーションの成功でもある。
学生たちは、男子も女子も創造の喜びに顔が輝いている。映画を通して自己を発見する興奮が全身に漲(みなぎ)っている。過去作品に出演したプロの俳優よりも、彼らははるかに強いオーラを放っている。
彼らの存在は、本作にデビュー作「高校大パニック」のパワーを甦らせている。石井監督の初期衝動も復活している。
自分革命映画闘争
2023、日本
監督:石井岳龍
出演:神戸芸術工科大学・映画コース関係者有志
公開情報: 2023年3月25日 土曜日 より、渋谷・ユーロスペース他 全国ロードショー
公式サイト:https://jibunkakumei.brighthorse-film.com/
コピーライト:© ISHII GAKURYU
配給:ブライトホース・フィルム