外国映画

映画レビュー「セールス・ガールの考現学」

2023年4月27日
セックス・ショップでバイトを始めた内気な女子大生。人生経験豊富な女性オーナーの手ほどきを受け、積極的な人生を歩み始める。

モンゴル映画のイメージを一新

大学で原子力工学を学ぶサロール。ルックスは悪くないが、地味で覇気がなく、イケてない雰囲気の女子大生である。ある日、同級生からバイトの話を持ちかけられる。

バナナで足を滑らせケガをした自分の代わりを務めてほしいと言うのだ。ギャラは高く誰でもできる簡単な仕事。それならと行ってみると、そこは、いわゆる大人のオモチャを販売するセックス・ショップだった――。

無気力で主体性に欠けるヒロインが、セックス・ショップを経営する人生経験豊かな女性との出会いを通して、積極的な人生を歩み始める物語。

セックス・ショップのオーナーであるカティアは、かつてダンサーとして名を馳せた女性である。裕福な教養人で自信にあふれたカティアは、子供っぽく未熟なサロールに苛々しつつも、人生の先輩としてさまざまな助言を与えていく。

ボーイフレンドはいるが、友達以上の関係ではない。大学の専攻は親の勧めに従っただけで、実は興味も関心もない。そんなサロールが、カティアの手ほどきを受け、自立した女性へと変身していく。

カティアはかなり年配の女性だ。普通ならとうに女をリタイアしていてもおかしくない。だが、彼女はいまだに現役バリバリ。そんなカティアの感化を受け、内に閉じこもっていたサロールは外の世界へと解き放たれていくのだ。

ただし、二人の関係は、人生の先輩と後輩という単純なものではない。カティアにも弱みはある。辛い過去がある。カティアはそんな自分の心の内をサロールに打ち明ける。そして、二人の間には友情にも似た親しい感情が通い合うことになるのである。

女性の自由と自立と人生を、セックスにポイントを置きながらユーモラスに描いた、異色の青春映画だ。ヨーロッパ映画的なムードが漂うが、首都ウランバートルを舞台にした、純然たるモンゴル映画である。

セックス・ショップをはじめ近代的なホテルやビル、賑やかな街並みなどの都会風景、そして今風なヒロインのキャラクターなどは、草原や遊牧民に代表されるモンゴル映画のイメージを打ち破るものだ。

単色画面の色彩を次々と切り替えたり、ヒロインがヘッドホンで聴いていた音楽を唐突に解放し、ミュージックビデオさながらの空間を生み出すなど、随所に見られるスタイリッシュな演出が秀逸。

かつてウォン・カーウァイ監督の「恋する惑星」(94)が香港映画のイメージを変えたように、モンゴル映画を一新する可能性を感じさせる逸品だ。

セールス・ガールの考現学

2021、モンゴル

監督:センゲドルジ・ジャンチブドルジ

出演:バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル、エンフトール・オィドブジャムツ、サラントヤー・ダーガンバト

公開情報: 2023年4月28日 金曜日 より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷他 全国ロードショー

公式サイト:http://www.zaziefilms.com/salesgirl/

コピーライト:© 2021 Sengedorj Tushee, Nomadia Pictures

配給:ザジフィルムズ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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