7月15日(土)から23日(日)まで、昨年から再開されたスクリーン上映、22日(土)から26日(水)まではオンライン配信されたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023。
国内コンペティションでは、「地球星人(エイアリアン)は空想する」が優秀作品賞(長編部門)とSKIPシティアワードをダブル受賞し、「ヒエロファニー」が観客賞(長編部門)を受賞した。
SFかラブストーリーか
「地球星人(エイアリアン)は空想する」は、雑誌記者の宇藤が、エイリアンによる女子大生拉致事件の真相を追う物語である。
舞台はUFOで町おこしをしたことで有名な石川県の羽咋(はくい)市。小さな町だが立派な宇宙科学博物館がある。エイリアン騒ぎで話題になれば、町の宣伝にもなるとあって、わざわざネタを提供してきたのだ。
しかし、そんな話を真に受けるわけにいかないのが、ベテラン記者の宇藤だ。さっそく現地に赴き、取材を始める。拉致された女子高生の乃愛(のあ)にも接触するが、彼女は自分を宇宙人だと主張する。エイリアンに拉致され宇宙人に変えられたのか。
さらなる取材を進める中で、にわかに浮上してきたのが、アルネリアン教会というカルト教団、そして、その幹部で鳩代(くしろ)豊という男だった。そして、乃愛と鳩代との関係が明らかになっていく――。
「コスモアイル羽咋」という実在の宇宙科学博物館をロケ撮影に使い、そのマスコット・キャラクターの「宇宙人サンダーくん」も登場させるなど、実話風SFの雰囲気づくりが巧み。青い光を放つ飛行物体や、地面に残るミステリーサークルといった定番の被写体も、随所にソツなく組み込み、ミステリアスなムードを盛り上げている。
よくできたSF映画だな。そう思って見ていると、途中から様相が変わってくる。エイリアンによる拉致事件の話は、いつの間にか乃愛の内面世界の話に転じ、宇宙人という呼び名に仮託された人間のあり方という、深いテーマが追求されていく。そして、最後は詩的なラブストーリーにまで昇華されていくのである。
終盤は鄭亜美の独壇場
「ヒエロファニー」は、臨床心理士の詩織が、教会の神父や、信徒の青年、補佐役の女性信徒とともに、超常現象に巻き込まれる物語だ。
詩織は人の悩みを解決する仕事に就いていながら、娘の悩みに気づかず、彼女の自殺を止めることができなかった。クリニックを辞めた詩織は、図書館で無料相談を始めた。
そんな詩織のもとを教会の神父である長谷川が訪れ、信徒の青年の話し相手をしてくれと依頼される。だが、青年は詩織を避け、教会からも姿を消してしまう。
詩織と長谷川は、方法こそ異なれ、人の悩みを聞き、その心を癒すという点で同じ役割を担っている。ところが、二人とも十分にその役割が果たせないでいる。これが本作の基本的な構図だ。
詩織は娘の亡霊に怯え、長谷川は聖職者としての自信を失っているように見える。そんな二人の魂が互いに歩み寄る話だろうかと見ていると、そういう展開にはならない。
後半、ホラー映画の様相を呈する中で、にわかに存在感を高めていくのは、長谷川の仕事を補佐する女性信者だ。山内ケンジ監督の「夜明けの夫婦」(2021)でヒロインに扮し、強烈なオーラを放っていた鄭亜美が、ここでも何を考えているか分からない不気味な女性を、圧倒的な存在感で演じている。
衝撃的なクライマックスを含め、終盤は鄭亜美の独壇場。ヒエロファニー(聖体示現)というタイトルからして難解な作品ではあるが、最後まで目を凝らし見入ってしまうのは、鄭亜美の存在ゆえであろう。
地球星人(エイリアン)は空想する
2023、日本
監督:松本佳樹
出演:田中祐吉、山田なつき、アライジン、中村更紗、村松和輝
コピーライト:🄫世田谷センスマンズ
ヒエロファニー
2023、日本
監督:マキタカズオミ
出演:伊勢佳世、古屋隆太、鄭亜美、工藤孝生、波多野伶奈
コピーライト:🄫elePHANTMoon
公式サイト:https://www.skipcity-dcf.jp/