日本映画

映画レビュー「サーチライト-遊星散歩-」

2023年10月13日
認知症の母を世話するヤングケアラーの女子高生・果歩。同級生の輝之が心配する中、彼女はJK散歩の世界に足を踏み入れる。

少女は逆境を克服できるか

認知症の母と二人暮らしの女子高生・果歩。普通に学校に通っているが、自宅に帰れば母親の世話が待っている。いわゆるヤングケアラーだ。

スーパーで買い物すらできないほど、生活は逼迫しているのだが、友人にも誰にも話していない。ところが、ある日、同級生の輝之に果歩の困窮ぶりがバレてしまう。学校のトイレでトイレットペーパーを盗もうとしているところを、目撃されてしまったのだ。

教師にも見つかり、絶体絶命のピンチに立った果歩。そこで救いの手を伸ばしたのは輝之だった。果歩の代わりに罪を被ってくれたのだ。

兄弟の多い輝之は、家族の暮らしを支えるため、新聞配達とファミレス店員という二つのバイトを掛け持ちしていた。それでも携帯電話が買えないほど生活は苦しい。

そんな輝之だから、果歩の苦境は痛いほど分かったに違いない。異性としても魅力を感じていた輝之は、果歩に近づき彼女をサポートしようとする――。

母ひとり子ひとりの貧しい生活。しかも母親は若年性認知症だ。父は母の世話をしながら先に他界してしまった。青春を謳歌したい年頃の少女にとっては、かなりの逆境である。しかも、彼女はそれをひた隠しにしているのだ。

なぜ、隠すのか。プライドもあるだろう。大好きな母を施設に入れるのが嫌なのかもしれない。だが、自己に閉じこもることで、彼女はますます追い込まれていく。そして出口がなくなっていく。

果歩は、ついに“らしからぬ”行動に出てしまう。JK散歩の世界に足を踏み入れてしまうのだ。ただ並んで散歩するだけ。大したことはない。そう思ったことだろう。だが、それは必ずエスカレートする。果歩は窮地に陥る。

劇中、タイトルにもなっているサーチライトが、何度も映し出される。街の夜空に伸びる一条の光。果歩が子供の頃から見つめてきた光である。この光が最後に大きな意味を投げかける。

ひとりの女子高校生の姿を通して、貧困、認知症、ヤングケアラーといった社会問題に焦点を当てた作品。同時に、彼女に好意を抱く男子高校生との恋の芽生えを描いたラブストーリーでもある。

母親への思いゆえに自分自身を窮地に追い込んでしまうヒロインを「少女は卒業しない」(2023)の中井友望が鮮烈に演じ、圧倒的な印象を残した。監督は「餓鬼が笑う」(2022)で異才ぶりを発揮した平波亘。音楽を担当した合田口洸を路上ミュージシャン役に起用することで、オーソドックスな物語に独自のテイストを加えている。

映画レビュー「サーチライト-遊星散歩-」

サーチライト-遊星散歩-

2022、日本

監督:平波亘

出演:中井友望、山脇辰哉、合田口洸、都丸紗也華、西本まりん、詩野、安楽涼、水間ロン、大沢真一郎、橋野純平 / 安藤聖 / 山中崇

公開情報: 2023年10月14日 土曜日 より、K’s cinema他 全国ロードショー

公式サイト:https://searchlight-movie.com/

コピーライト:© 2023 「サーチライト-遊星散歩-」製作委員会

配給:SPOTTED PRODUCTIONS

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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