外国映画

台湾巨匠傑作選2024

2024年7月20日
台湾ニューシネマの牽引者として活躍したワン・トン監督。未公開作2本を含む「台湾近代史三部作」をデジタルリマスター版で公開。

ワン・トンの傑作3本

ホウ・シャオシェンやエドワード・ヤンらが注目を浴びる一方で、作品の上映機会に恵まれずにきた、知られざる名匠ワン・トン。今回の「台湾巨匠傑作選2024」では、台湾ニューシネマの牽引者として活躍したワン・トン監督の未公開作2本を含む「台湾近代史三部作」が、いずれもデジタルリマスター版で一挙公開される。

第二次世界大戦下、空襲で降ってきた不発弾をめぐって、農民たちが巻き起こす騒動を描いた『村と爆弾』(1987)。国共内戦で国民党軍に潜り込み、憧れの南国・台湾で数奇な運命に翻弄される男の人生を追った『バナナパラダイス』(1989)。日本統治時代の鉱山と娼館を舞台に繰り広げられる波乱万丈の群像劇『無言の丘』(1992)。

いずれの作品も、過酷な時代を精一杯生きる民衆の喜び、悲しみ、怒りを、時にリアルに、時にロマンティックに綴った、台湾映画史に残る傑作である。

「村と爆弾」

第二次世界大戦末期、日本統治下の台湾。農村では若い男たちがみんな兵隊にとられ、南方戦線で命を落としていた。ところが、アファとコウズエの兄弟は、母親の奇計で徴兵を逃れ、牧歌的な暮らしを続けていた。

そんなある日、都会から親戚の家族がやってくる。コウズエの妻の妹夫婦と子供たちだ。地主の夫は兄弟の田畑を製糖会社に売り払うつもりらしい。慌てる兄弟に追い打ちをかけるように、日本軍が農家の牛を徴用すると発表した。

窮地に追い込まれた兄弟だが、救いの神が降ってくる。米軍の空襲で不発弾が畑に突き刺さったのだ。軍に持ち込めば表彰される。兄弟は親しい巡査とともに、不発弾を担ぎ、駐在所へと乗り込むのだが――。

子沢山の貧乏家族を抱える兄弟が、起死回生のチャンスに遭遇。しかし、計画はあえなく潰(つい)える。と思ったら、事態は意外な展開へ。どんでん返しのエンディングが爽快だ。

戦争で両脚を失った兵隊、夫の戦死で気がふれてしまった兄弟の妹。悲惨な要素が散りばめられてはいるが、映画は暗く沈むことなく、たくましく生き抜く農民たちの姿が、ユーモラスに描かれる。

婦人会の防空演習、巡査が歌う軍歌「日本陸軍」、子供たちが歌う童謡「夕焼け小焼け」など、時代の雰囲気も活写されている。

「バナナパラダイス」

1949年、中国・華北。国共内戦の只中、国民党軍に潜り込んだメンシュアンは、幼馴染のダーションとともに、バナナがたわわと実る南国台湾へと赴いた。だが、二人は共産党スパイの容疑をかけられ、ダーションは行方をくらます。

逃走したメンシュアンは、ある夫婦と知り合うが、夫のチーリンは病死してしまう。赤子を抱えた妻のユエシャンに求められるまま、チーリンになりすましたメンシュアン。

高学歴のエリートだったチーリンの華やかな履歴のおかげで就職はできたものの、学歴がないゆえ満足に仕事がこなせず、綱渡りの日々が続く。

その後、身分がばれかける危機を何とか乗り切り、メンシュアンは台南のバナナ園にダーションを訪ねるが――。

変わり果てたダーションを引き取ることを決意したメンシュアンが、妻子とダーションを養うため悪戦苦闘を続け、何とか安定した職に就くまでのプロセスが、戦後の台湾史を背景に描かれる。

さらにそこから十数年後、管理職にまで出世したメンシュアンが登場し、物語は予想もできない局面を迎える。偽りの上に成り立ってきた人生が、驚くべき事実の発覚によって、至高の瞬間へと導かれる。鮮やかな作劇術に脱帽である。

「無言の丘」

大正時代末期。チュウとウェイの小作人兄弟は、長期契約で縛られた日々に愛想を尽かし、一攫千金が狙える金鉱へと向かう。

二度も夫に死なれ、一人で子育てしているズーの家に下宿しながら、二人は鉱夫として働き始める。重労働に明け暮れる男たちにとって唯一の愉しみは、近くの娼館で女を買うことだった。

堅物のチュウは娼婦に興味を示さず、若く純情なウェイは娼館で下働きする富美子に心を惹かれる。富美子は兄弟が金鉱にやってくる途中、丘の上で見かけた娘だった。

鉱山の日本人所長は、娼館が絡む金の流出に目をつけ、娼婦や鉱夫の身体検査に力を入れ始める。潔白な富美子は無理やり体を探られ、破瓜されたのをきっかけに水揚げされる。

無力なウェイは何もできず傍観するだけだったが、娼館で育ち、ウェイと同じく富美子に恋心を抱いていた赤目は、日本人所長を殺害してしまう。

子供を養うため、きつい肉体労働に加え、売春もしているズー。そんなズーに思慕を寄せるチュウ。幼い赤目を拾い育ててきた娼館のマダム。マダムといい仲の鉱夫ゴン。肺病を患っている娼婦。優雅に紅茶を飲みながらクラシックのレコードに耳を傾ける日本人所長。

金鉱と娼館を舞台に、さまざまな人間模様を描いた、群像劇。前二作と比べ、全体にペシミスティックな色彩が濃く、悲惨で残酷な描写も目立つ。しかし、ラストには未来への希望があふれ、青春への讃歌が響く。

台湾巨匠傑作選2024

村と爆弾[デジタルリマスター版]

1987、台湾

監督:ワン・トン

出演:チャン・ボウチョウ、ジョウ・シェンリー、リン・メイジャオ、ウェン・イン、ヤン・クイメイ

バナナパラダイス[デジタルリマスター版]

1989、台湾

監督:ワン・トン

出演:ニウ・チェンザー、チャン・シー、ゾン・チンユー

無言の丘[デジタルリマスター版]

1992、台湾

監督:ワン・トン

出演:ポン・チャチャ、ホアン・ピンユエン、ヤン・クイメイ、ウェン・イン、チェン・シェンメイ、レン・チャンピン、

公開情報:2024年7月20日 土曜日 より、新宿K’s cinema他全国ロードショー

公式サイト: https://taiwan-kyosho.com

コピーライト:© 2015 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.

配給:オリオフィルムズ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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