日本映画

映画レビュー「Cloud クラウド」

2024年9月26日
町工場を辞めた吉井は、恋人と郊外に引っ越し、転売屋として新生活をスタートする。だが、やがて周囲で不穏な出来事が続発する。

クライマックスの銃撃戦は圧巻

吉井良介は工場労働の傍ら、ネットを通じた転売で金を稼いでいた。本物か偽物かも判別できぬブランド品、売れ残った医療機器、オタクに人気のフィギュア。それらを安く買い叩き、高く売る。通帳を開いて増えていく数字を眺めるのが、吉井にとって最上の喜びだった。

勤め先の社長・滝本は、吉井が気に入っており、管理職への昇進を打診してくるが、吉井はすげなく断る。工場を辞め転売業に徹するため、吉井は郊外に自宅兼仕事場を借り、恋人の秋子と暮らす手筈を整えていたのだ。

地元の若者・佐野をアシスタントに雇い、転売業は順調に業績を上げていく。しかし、ほどなくして、吉井の周囲で不穏な出来事が起き始める。徘徊する怪しげな車。割られる窓ガラス。ネット上にあふれる見知らぬ他人からの悪意ある書き込み。

嫌がらせは次第にエスカレートし、やがて物理的な攻撃が吉井の生命を脅かすようになる。窮地に追い込まれた吉井は、アシスタントの佐野とともに反撃に転じる――。

攻撃を仕掛けてくる者たちが、互いに顔も名も知らぬ他人同士という点が、いかにも今日的だ。彼らはネット上でつながり、吉井を攻撃するという共通目的で盛り上がり、行動に出たのだ。ネットが生み出す集団の狂気というべきか。

メンバーには吉井を転売の道に誘った学校の先輩・村岡と、吉井が働いていた町工場の社長・滝本が含まれている。村岡は儲け話を、滝本は昇進話を、いずれも吉井に拒まれたことで、恨みを抱いている。ほかの連中も、おそらく取り引きなどを通して吉井に煮え湯を飲まされたか何かだろう。

いずれにせよ、吉井は絶体絶命のピンチに陥る。そんな吉井を救いに現れるのが、アシスタントの佐野だ。素朴な青年と思われていた佐野だが、実は只者ではないことが小出しに明かされていく。終盤のクライマックスでは、佐野の活躍がバトルの趨勢を決定づける。

佐野と同様、社長の滝本や恋人の秋子も、途中まで正体を見せず、ミステリアスな存在のまま、観客に緊張を与え続けるところは、さすがサスペンスの名手、黒沢清。抜かりがない。

圧巻は、クライマックスの銃撃戦。廃工場を舞台に、戦場さながらのバトルが繰り広げられる。危殆に瀕した吉井と佐野が、隙を突いて逆襲し、村岡を倒す場面をはじめ、アドレナリンが吹き出すカットが次々と繰り出される。かねて“普通の人が殺し合いをする”アクション映画が撮りたかったという黒沢清監督。宿願はきわめて高いレベルで達成されたようだ。

映画レビュー「Cloud クラウド」

Cloud クラウド

2024、日本

監督:黒沢清

出演:菅田将暉、古川琴音、奥平大兼、岡山天音、荒川良々、窪田正孝

公開情報: 2024年9月27日 金曜日 より、TOHOシネマズ日比谷他 全国ロードショー

公式サイト:https://cloud-movie.com/

コピーライト:© 2024「Cloud」製作委員会

配給:東京テアトル 日活

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

この投稿にはコメントがまだありません