日本映画

映画レビュー「ほなまた明日」

2024年9月28日
写真を専攻する4人の同級生。卒業を控え、進路選択を迫られている。写真家デビューできたのはナオだけ。恋人の山田は取り残された。

夢が叶ったのは一人だけ

芸大で写真を専攻する若者たちの、別離と再会を描いた青春映画である。登場人物は、いずれもプロの写真家を志して入学した4人の同級生。彼らは親しい友人でありつつ、才能を競い合うライバルでもある。

4人は卒業を控え、進路の選択を迫られている。どうやら写真家の夢を実現できそうなのは草馬ナオだけのようだ。

四六時中、写真のことしか頭になく、外出時には首からカメラをぶら下げ、ピンときたらシャッターを切る。路上でハントした被写体は、納得のショットが撮れるまで逃さない。

同級生で恋人の山田は、そんなナオに「容赦ないなあ」と呆れながらも、だからこそ生まれる彼女の写真の力を認めざるを得ない。

ナオと山田の関係を知り動揺する小夜(さよ)も、ナオに恋心を抱いていた多田も同じ。ナオの情熱と才能には敵わないと思っている。

ナオは4人の中で突出した存在なのだ。とは言え、なぜナオだけがという思いはあるだろう。

同級生あるいは恋人という自分にとって身近だった存在が、自分の手が届かない世界へと飛び出していく。それは自分の無力さを直視させ、プライドを破壊するだろう。その感情を最も強く味わっているのが、山田である。

山田はドイツ留学の決まったナオから切り出される前に、先手を打って別れ話を持ち出す。ナオは言い訳めいたことは一言も語らず、黙ってうなずく。場所は真夜中の商店街。ナオが山田を呼び出したのだ。

未練を断ち切りがたい山田は、ナオが自分を「愛おしい」と言ったのは本当かと尋ねる。「たぶん」とナオが答える。

ナオは傷ついて心は血まみれであろう山田を立ち止まらせると、カメラを向け、シャッターを切り始める。愁嘆場で被写体にされた山田の「容赦ないなあ」というセリフが切ない。

もし、これが男女逆だったらと想像してみる。4人の関係も、物語の展開も全く違ったものになっただろう。

ストーリーは道本咲希監督の実体験がベースになっているそうだ。おそらく創作の世界で身を立てようとする女性は、多かれ少なかれ、ナオのような立場を経験するのではないだろうか。それはかなりキツイ生き方かもしれない。それでも我が道を突き進めるかどうか。

逆に、山田のような男性であれば、ナオのような女性と付き合い、愛し続けていくことはできるのかどうか。

本作は、共通の夢を追う若者たちの巣立ちを描いた青春映画ではあるが、内包されたテーマはなかなか重い。

競争意識は友情や恋愛にどんな影響を与えるのか。とりわけ男女間ではどうなのか。口に出したら関係が崩れかねない男女間の意識のギャップ。ジェンダー問題。その意味で、本作は社会派の青春映画と言ってもよいだろう。

映画レビュー「ほなまた明日」

ほなまた明日

2024、日本

監督:道本咲希

出演:田中真琴、松田崚汰、重松りさ、秋田卓郎、大古知遣、ついひじ杏奈、越山深喜、ゆかわたかし、加茂井彩音、福地千香子、西野凪沙

公開情報: 2024年9月28日 土曜日 より、新宿K's cinema他 全国ロードショー

公式サイト:http://honamata-ashita.com/

コピーライト:© ENBUゼミナール

配給:ENBUゼミナール

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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