日本映画

映画レビュー「カフネ」

2024年10月11日
恋人との子を妊娠してしまった高校三年生の澪。親友の夏海や恋人の渚と向き合い、ぶつかり合う中で、澪は自ら決断を下す。

ワイドスクリーンを生かした構図も見事

高校三年生の澪(みお)は、ある日、自分が妊娠していることに気付く。父親は恋人の渚だ。動転した澪は、矢も楯もたまらず、渚の元へ自転車を走らせるが、いざ顔を合わせると何も話せなかった。

堕ろすべきか、生むべきか。堕ろすなら早いほうがいいと、婦人科の医師は澪に忠告する。

澪の異変に気づいた親友の夏海は、半ば冗談で妊娠かと問うが、図星だったことに驚く。澪は夏海に付き添ってもらい、再び婦人科を訪れ、胎児の生育状況を確認する。

その帰り道、澪と夏海は、外出中の渚にばったり出くわす――。

親友もいる。恋人もいる。青春を謳歌していた女子高生が、突如として人生の岐路に立たされる。恋人や親友、そして両親と向き合い、話し合い、覚悟を決めていく澪の姿が、ロケ地となった三重県熊野市の美しい風景をバックに描かれる。

中心人物はあくまで澪だ。だが、映画は揺れ動く彼女一人を映し出すだけでなく、渚や夏海との関係にも焦点を当てていく。

身近な人物の妊娠という“事件”を知らされることで、彼らはどんな反応を見せるのか。そのリアクションを通して、澪と彼らとの関係を見せていくのだ。

例えば、放課後に澪と夏海が突堤に腰掛けて話すシーン。澪の告白を聞いた夏海が心配そうに澪の顔を見つめるが、この時点で観客は、夏海がある事実を澪に隠していることを知っている。ゆえに、夏海の表情には澪の気付かぬニュアンスが漂う。

もう一つ、澪と夏海と渚が路上で会話する3ショットのシーン。後ろを向いた渚と正面を向いた澪との会話に反応する、これも夏海の微妙な表情が効いている。

渚が澪を学校から連れ出し話すシーンは、細長い突堤を生かした構図も素晴らしい。ワイドスクリーンの両端に離れた二人が会話し、最後に澪が決心を語ったところで、その距離が一気に消える。

ほかにも、フォーカス・アウトを用いて、特定の人物のリアクションだけを見せるなど、繊細な演出が随所で光る。

ストーリー自体に意表を突くものはないが、全編に新鮮さを感じるのは、これが長編初監督という杵村春希監督の映像センスによるものだろう。澪と夏海に扮した山﨑翠佳、松本いさなの貢献度も高い。

※松本いさな主演の短編「チョコレートコスモス」同時上映

カフネ

2023、日本

監督:杵村春希

出演:山﨑翠佳、太志、松本いさな、木下隼輔、澤真希、渡辺綾子、桜一花、入江崇史

公開情報: 2024年10月12日 土曜日 より、ポレポレ東中野他 全国ロードショー

公式サイト:https://cafuneofficial.studio.site/

配給:ハルキフィルム

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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